中学生の野球部の息子がある日曜日、ずぶ濡れ泥だらけのユニフォーム姿で帰宅した。
朝から降ったり止んだりの雨の中、大会前ということもあって練習を強行したらしい。
汚れたユニフォームの洗濯も大変だが、この日の問題はスパイクだった。靴の中まで入り込んだ砂、靴ひもにこびりついた土、スパイクの表面全体を覆う泥、泥、泥。「ボロの雑巾を置いておくから汚れを落としておきなさい」と本人に言ってはみたものの、あまりの泥まみれ状態に、なかなか手を付けられずにいた。
そこで、スパイクを何度も磨いてきた元高校球児の私が、ブラシでゴシゴシやり始めた。中敷きを取り出し、ひもをほどき、砂・土・泥をきれいに落として見せていると、ふと自分が中学時代、監督からこう言われたことを思い出した。
「スパイクを磨いてこない奴は試合に出さない」
靴を磨いたことなど1度もなかった自分には、なぜスパイクを磨かなければならないのか意味が分からなかった。しかし、続けているうちに試合前は磨くのが当たり前になり、そのうち他のチームのスパイクにも目が行くようになった。そこで気づいたのは、きれいなスパイクで出てくるチームは強いということだった。強いチームはスパイクだけではなく、ユニフォームの着こなしやあいさつなど、野球以外の生活面がきっちりしている。
そうか。これは何も野球に限ったことではなかったのだ。勉強も然りだ。
勉強ができる生徒は日常生活がきちんとしている。
あれから30年以上の歳月を経た今、監督の言葉の真意がようやく理解できた。
これを黙っている理由はない。息子にはこれをきっかけに2つのことを教えた。1つ目は
「スパイクを磨くと野球が上手になる」である。
スパイクを磨くという行為は野球に対する真摯な態度の表れである。その心構えが野球を上達させるのだと。
そして2つ目は
「足もとを見る」という慣用句についてである。
せっかくなので、言葉の勉強もしてもらおうと思い、国語辞典で調べさせた。
昔、「かご」をかつぐ人が、客の足の疲れ具合を見て料金を決めたことから「弱みに付け込む」という意味で使われているのだということを、息子は学んだ。そしてこの慣用句は彼の胸に深く刻み込まれたであろう。
人に「足もと」を見られないように、しっかりと学び、自立した大人に成長してほしいと思う親心は、息子に届いていると信じたい。
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